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Vol.1 金沢 町家ワークショップで金工細工体験

  • 執筆者の写真: 一平 大竹
    一平 大竹
  • 2024年3月18日
  • 読了時間: 13分

更新日:2024年3月19日

2016年から2018年にかけて、「自分のなかの伝統工芸」を触れるために各地を旅していました。その様子をエッセイ的にまとめたブログが「CraftArtist 旅日記」です。

もはや昔話ですが、「Craft Gene」の序章となったブログエッセイを、かつて書いたまま、記録として公開しておきます。



伝統工芸と旅をしてみる
CraftArtist旅日記2016

Vol.1 金沢 町家ワークショップで金工細工体験


訪れた場所、日常の中で感じた伝統工芸的旅、または単なる旅的なことを「CraftArtist 旅日記」としてまとめていきます。


人生は旅だし、旅の形はいろいろです。

伝統工芸の産地を訪れた様子、工芸体験をした様子、もしかしたら気持ちの中で感じたこと、移動する旅、心の旅にかかわらず、やってみます。

今まさに修行中です。

2016.4.23 金沢に感謝

大竹 一平




久しぶりの熟睡、のち金沢

早朝、春も盛りな4月下旬のまだ暗い時間に、目覚まし時計が鳴って起こされました。


夢さえ見ない完全に眠っている頭の中で、遠くでなにか音が鳴っているのに気づいて、寝惚けてワケのわからないまましばらく枕の周りを搔きまわしながら。

実は最近しばらくよく眠れていなかったし、時計が鳴る前に起きてしまうことが多い毎日だったので、あの音がなにを意味するのか、しばらく気づきませんでした。

「あ、今日は金沢行くんだ」

それでようやく、急速に体が動き出しました。

…となるとかっこいいですが、実際には頭が動いたことでようやく重たい体がのろのろと動き出しました。

ただ深く深く眠れたので、気分はなんとなくいいです。



小京都は卒業?

今日は金沢の町家でオープンハウスがあり、そこに呼んでもらっていました。


日本中に“小京都”と呼ばれる街がありますが、金沢は“元祖小京都”でしょう。

教科書で教わる日本の歴史は、縄文時代以後、邪馬台国を経て奈良の平城京あたりから始まりますが、日本人の感覚として歴史の起点は京都な気がします。


なんでだろう?


おそらくたくさんの理由があって、たくさん人がたくさんの説を論ずるのでしょうが、僕は単純に都として存在した期間の長さと、もう1つは源氏物語だと思っています。


あれだけ赤裸々に日常と感情と欲望を緻密に書き、小説・エッセイ・暴露本すべての要素が高いレベルで揃った文学作品は源氏物語が最初だろうし、今のところ最後です。今に生きる人もあれで初めて、日本人の歴史的な日常生活(?)が実感として捉えられるようになったんじゃないかと。


もちろん実際には分からないです。いずれにしても京都はいろいろあって日本の歴史と文化のスタートポイントと思っている日本人は多いし、それにあやかって地域を盛り上げたいというのが“小京都”なのでしょう。


ただ面白いのが、いま金沢は積極的に小京都とは名乗っていない気がします。


元祖としては、日本中に小京都が増えたからかもしれません。でもそれよりも、金沢は金沢としての自信を身につけたから、京都に頼らなくてもやっていけると自信を持ったからーー、だったらいいなと思っています。

新幹線もつながったし。


そもそも日本では京都と奈良だけが皇族主導でイチから築き、文化的に貴族が成長させた街。

一方、金沢に代表する“小京都”はきっかけも文化も初めから最後まで武士が中心になって作った街、同類に扱うのは乱暴すぎます。


実際、京都は京都だし、金沢は金沢。魅力はそれぞれです。



北アルプスを一気に越えて

さて。

今日のワークショップは10時半から。その前に今回呼んでいただいた金工細工職人の秋友美穂さんに挨拶と話もしたいしと思って、10時には着こうと思っていました。

そのためには朝早く起きて新幹線や飛行機で向かうのですが、いつもの通り飛行機で小松空港に向かいます。


小さな我が家のある練馬からだと、近くのバス停からリムジンバスに乗れば東京駅に行くより羽田に行く方が楽で早いし、料金はほぼ同額だし、空を飛ぶ飛行機のほうが好きだし。

しかも、羽田から小松に向かう航路はたったの1時間弱だけど絶景の連続。



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羽田から小松空港へのクライマックス、北アルプス越え


東京湾から都心と関東平野の広がりを眺め、甲府から先は八ヶ岳に挨拶したあと北アルプスの山脈を豪快に飛び越え、山間に光る黒部ダムを眼下におさめた先には真っ青な日本海と、羽田発だったら日本一の興奮ルートだと、自信を持って薦められます。


もちろん、ってこともないですが日帰り旅です。

来週は唐津へも行くので。



ゆる〜く穏やかな始まり

町家ワークショップが開かれるのは「金澤町家職人工房 東山」。金沢駅からはバスもあるけど歩いても20分ほど、近江市場を越えて浅野川の橋を渡り、ひがし茶屋街を抜けた少し先にあります。



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浅野川を渡ってひがし茶屋街へ。


この工房自体、実は金沢市が若手の伝統工芸作家を育てるために用意したもので、伝統工芸のインキュベーション施設となっています。

まだ自分の工房を作るには資金的にも自信的にも不安という若手作家に対して、金沢市役所の「クラフト政策推進課」という、金沢らしい素敵な部署が借り上げた物件を工房として割安で貸し出す。

しかもその工房は、金沢の古民家である町家をリノベーションした一軒家。

ただし、できるだけ多くの若手作家に利用して欲しいから、借りられるのは3年間だけ。


その初代入居者が秋友さんで、おそらく彼女が入って間もない頃に、たまたま前を通りがかったのがきっかけで知り合ったのでした。


今回はその三代目となる入居者を募集するためのオープンハウスイベントです。

今は都内に住んでいるものの生まれた時からここで育ったというオーナーが、この町家がどんな建物で、どんな思いでこのプロジェクトに提供するに至ったかを思い出とともに語り、その思いを受けてリノベーションに携わったNPO法人金澤町家研究会の建築士が実際の苦労と金沢市内の他の町家の現状の様子などを語り、さらに初代入居者の秋友さんが入居していた頃の様子を語った後、自身が指導しながら金工細工を体験してもらうという、もりだくさんのワークショップです。



実家としての町家問題

ワークショップの会場となった「金澤町家職人工房 東山」。


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肝心な町家の写真を撮るのを忘れてしまったので、NPO法人金澤町家研究会からお借りした写真です。

若手の職人さんが3年間、ここを工房として使うことができます。

その室内。


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外観、室内とも写真は金澤町家研究会よりお借りしました。


外見を目にして「おしゃれだなあ」と思い、中に入れば「うわあ」とため息です。

右端には午後の金工細工体験のアクセサリーでモチーフとなった“箱階段”が二階に続く様子が見えます。


10時、予定通りに着きました。ひがし茶屋街から歩いて5分もかからない場所にありますが、観光客もここまでは来ないのか、周辺も静かで穏やかな空気です。

町家自体も思ったより静かで、人がいないのかな?と思ったほどです。

でも入口から顔をのぞいてみると、「いらっしゃい」とやわらかな歓迎の声。

この町家のオーナーさんと、クラフト政策推進課の担当の女性でした。


なんとなくもう賑わってるのかなと思ってきたので少し拍子抜けでしたが、お二人の穏やかな声に逆に安心して入れました。

すると入口から「おー!いらっしゃい!」と秋友さん。

いつも通り、久しぶりに会ってもぜんぜんそんな雰囲気を感じさせません。

席に座り、いただいた飴を口の中でコロコロ転がしつつオーナーさんと雑談していると、なるほどなあと思うことしきり。


一番印象に残ったのは、現実的な問題として町家を残し維持する難しさでした。

残したい気持ちはあるけど、持ち主が維持・改修するためにかけられる費用は限られる。「正直、リノベーションにいくらかかるかも分からなかったし、取り壊して駐車場にしようかと思って、具体的に準備をしていた時もあったんですよ」と言います。

歴史的な建物とは言え、持ち主からすれば“実家”。自分は東京で暮らしており住む人がいない、しかも(リノベーションする前は)朽ちて崩れかけた実家。自分がその立場だったら、どうするだろう…。


「私がものぐさだから結局もたもたと壊さなかっただけなんですが、またこうして使ってもらって賑やかになると嬉しいですね。きっとこの家も喜んでいるでしょう」


そういう意味で「金澤町家職人工房 東山」として市の施設になって使われているのは嬉しいことだし、正直助かるといった話でした。

気づけば町家は参加者でいっぱいになっており、時間通りワークショップが始まりました。

へー!と思ったのが、“町家”と言っても場所場所で定義が異なるそうで、京都で町家と言えるのは武家や商家が使っていた建物のことを言い、金沢では住む人の定義はなく、戦前に建てられた民家のことを町家と呼ぶそうです。


金沢市内にはこのような町家が6000軒以上残っているそうで、リノベーションして住む人も増えている反面、オーナーの中には費用的な問題や、仮に直しても住んでくれる人、使ってくれる人がいるかメドが立たないといった不安から、リノベーションに取りかかれないケースも多いそうです。


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この写真は、のちに「金澤町家工房 東山」になる前の様子、リノベーション前です。

これも金澤町家研究会からお借りした貴重な写真なのですが、なかなかのもんですよね。


「ずっとほうっておいたし、実際建物が傾いていたんですよ」とオーナー氏。

しかしプロの手にかかれば、この状態から上の写真のようになってしまうんです。

これを見て「いける!」と思う建築士の方々がすごいと思います。



チキンカレー、のちコツコツトントン

昼になって少し休憩を挟んだ後、午後はいよいよ金工細工の体験です。

いったん町家を離れてひがし茶屋街のあたりを散策して、休憩がてら思いがけずおいしかったチキンカレーとアイスコーヒーのしあわせに浸った後、頃合いを見計らって戻ると、建物に入る前にからコツコツトントンと小気味良い音。


金槌で叩いて銅板に刻印を入れて、アクセサリーを作っている音です。

入口からのぞきこむと

「おかえりなさい。ぜひ遊んでいってくださ〜い」

と秋友さん。


その時は女性3人がすでにアクセサリー作りの体験をしており、2人はまさに仕上げに入って完成しようというところ、1人は逆に金槌を手にこれから打ち始めようというところでした。

金工細工の技法に、鍛金と彫金というのがあるそうです。鍛金は銅板など金属の板を金槌を使って叩いてボコボコとした形を打ち出していく技法。彫金は今回の体験のように銅板にタガネと呼ばれる金属のハンコのようなものを当てて、タガネの頭を金槌で叩いて刻印を入れていったり、または削ったりといった技法のことだそうです。


職人の方が金工細工を作る時は、大きな銅板を自分の作品に合わせた大きさに切り出すところから始まるのでしょうが、今日はごく短い時間に一人でも多くの人に体験してもらいたいという思いもあったのでしょう。

秋友さんがあらかじめハートや町家にある箱階段(階段の下の部分に引き出しがついて収納できる階段)などに形どった銅板を用意しておいてくださり、そこに数字やアルファベット、記号が入ったタガネを使い、金槌で刻印をする体験でした。



よし、始めよう!

と、金槌を手にしたところで、しばし固まってしまいました。


箱階段を選んで、刻印する文字のイメージも決まったのですが、どこに打ったらよりきれいだろう? そんなことを考えて小さな銅板を見つめて固まってしまったのです。

最初の一振りが一番勇気が必要かもしれない。


「軽く浅く打てば淡い感じになっていいし、強く深く打てばくっきりと文字が浮かんでそれはそれでいいですよ。多少曲がっても味になるし、失敗というのはないから楽しんでやってみてください」


手作りの良さって、そこなんです。きれいに出来ても多少曲がって出来ても、それがその人のその時の作品。不思議とその人なりの雰囲気が出て、それがいい味になる気がします。

もちろん売り物にしようと思えば、また話は別ですが。


思いを決めてコツコツトントン金槌を振り出すと、やはり楽しい!

ごく単純な作業なのに、とても集中できます。


刻印した文字を見ると、自分がイメージした場所とちょっとずれたあたりに文字が刻まれています。

でもなんというか、それがまた楽しい。

「あれ!こんな感じに入るのかあ!」なんてつぶやきながら、イメージと違うから、より初対面感が出るというか。


銅は思った以上にやわらかく、数回叩いただけでしっかりと刻印されていきます。

もしかしたら多少力が入りすぎていたのかもしれません。

でも確かに微妙な力加減でやはり打ち込まれた文字の表情というか雰囲気が変わるし、これをある程度イメージしながら、自分の思い通りに刻印できるようになったら、また楽しいだろうなと感じられます。



ずーっと叩いていたい

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銅の彫金アクセサリー完成!


不思議なのが、叩いているうちにだんだんと銅がたわみ、真っ直ぐだったのがやや丸まってきました。

「叩くことで銅が少しのびて歪んで、たわんでしまうんです」

なるほど~。あまり気になるようなら、反対から金槌でほんの軽くコンコンと叩けば戻せるようですが、このたわみもまた味わいかなと思えます。


ただ叩くだけだと思っていたのに、思ったより銅が形を変えて行き、そこから小さくも確かな躍動感が伝わってきます。そしてまずいことに、叩き、形が変わるにつれ不思議なシンパシーが生まれ、さっきまであんなに冷たかった銅との間に、いまや友情を感じてしまいます。

叩くほどにこの小さな銅に命を吹き込んでいるようだし、叩くたびに作家(ワタクシですね)と銅板の間に結ばれたつながりを(自分勝手かつ一方的に)深めていき、もはや他人とは思えません。やばいのかな、おれ…。


油断すると銅板中にコツコツトントンと刻印し続けたくなってきます。

そこを抑えてひとまず刻印の部は終了。


次はその銅版を黄色いぬるま湯に浸して軽くゆすります。


「このお湯、黄色いですけどなんか入ってますよね?」

「硫黄です。と言っても、お風呂に入れる入浴剤なんですけど」


なるほど。硫黄、ですよね。思わず笑ってしまいました。

硫黄のお湯につけて軽くゆするうち、銅板が酸化して真っ黒になってきました。全体がまんべんなく真っ黒になったら真水でゆすぎ、仕上げに移ります。


仕上げは紙やすりで表面を磨きます。表面は元の銅の輝きになりますが、刻印した部分は彫れているのでやすりが届かず、黒いまま。だから打ち込み刻印した文字や模様がくっきりと浮かび上がるのです。

この磨きも、丁寧に磨き続ければ全面がピカピカとした仕上がりになり、すこし酸化の黒を残す程度に磨けばアンティーク調の色合いにもなると、自分がイメージする雰囲気に調整することができます。


最後にキーホルダーの金具をつけてもらって完成。作業時間30分弱でしたが、なにより気持ちが入りました。



また来るだろうな

名残惜しい感じはするのですが、ワークショップには次から次へとお客さんが訪れて賑わっています。棚に並んだ秋友さんの作品を眺めつつアクセサリーを完成させた興奮が落ち着くのを待ち、みなさんに挨拶をしてから町家を離れることにしました。


陽の長い4月ということもあって、まだまだ午後まっ盛りの15時すぎ。最終の飛行機に乗るには18時に金沢を出れば十分です。

せっかくなので近くの「金銀箔工芸さくた」をのぞいて金箔が出来る様子を見学して、まだ人の多いひがし茶屋街を少し歩いて、近江町市場から駅まで散歩しつつ帰ることにしました。


作家、職人としての秋友さんはもちろん、澄んだ感性と能力を持つ優れた方だと思います。でもそれだけでなくて、本人の個性と人柄の良さでしょうが秋友さんの周りに集まる人たちがみな個性的で面白くて、ようはいい人たちなのがすごいなあ――。


そんなことを思いながら、金沢なのに、しかも海鮮丼や寿司屋が並ぶ近江町市場なのに、ふと目が吸い込まれてしまったラーメン屋「武蔵丸」に入り、派手なラーメンにビールをあおりつつ、フワフワと心地よい春の宵なのでした。

そういえば昼もチキンカレーだし、食についてはまったく金沢っぽくなかったな。


まあいいや。

金沢、きっと近いうちにまた来るだろう。




 
 
 

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